「僕がここに君を連れて来たと言うのに、寂しくさせたら申し訳ないが、ゆっくりと過ごしてくれ」

「ヴィクトル、気にしないでください。私……その間に、辺境伯夫人としての勉強しますわ」

 胸を手で押さえながら私がそう言うと、ヴィクトルは目を見開き驚いた後で、機嫌良く笑った。

「ああ。君ならば、そう言うと思っていた。安心したよ」

 朝日に照らされた顔が、かっ……格好良い。結婚します? 私は今すぐでも良いです。大丈夫です。

 ヴィクトルの整った顔をうっとり眺める私の気持ちを知ってか知らずか、彼は微笑み言葉を続けた。

「レティシアもわかっていると思うが、もし……婚約することになっても、君と僕との婚約は一年待つことになる。それまでに、結婚の準備も済ませ、すぐに式を執り行おうか」

 婚約破棄されたら一年待たないと再度婚約出来ないという、この国ではそういう法律でもあるのかな……?

 けど、結婚式もすぐなのなら、未婚貴族令嬢として嫁入り先をさっさと見つけなければならない私だって願ったり叶ったりのはず。

「はい……あ。このスープ、美味しいですね!」

「そうですか。それは、この辺りでしか取れないセキョンという珍しい獣のスープで、この国でもどこでも食べれるという訳ではないんですよ」

「珍しい……何だか、特別なスープなんですね」

「ええ。これはデストレでしか、食べられませんから」

 そんな地域限定のスープをおかわりしてお腹を満たすと、ヴィクトルは早々に仕事へ向かって行った。忙しそう……。