これから私が住むことになるデストレ辺境伯ヴィクトルの居城は、巨大だった。何故かと言うと、彼の守護するデストレ地方は険しい山脈に囲まれ、一つしか通れる道がない。

 だけど、その道を守るため巨大な門が造られ、囲うように砦、そして、高い位置に城が作られていて、いわゆる城塞都市だったのだ。

 その中にある、広い部屋を特別に与えられて、昨夜から念願だった鏡を見た私は息をのんだ。

「え……すごい……美女……」

 美しく艶やな金髪に、烟るような長いまつ毛の下には、輝く宝石のような青色。絶妙に配置された顔には、驚いた表情。

 うん……当たり前か、私、驚いているものね。これは私。

 ええ。自分が美女過ぎて、驚きました。仕方ないでしょ。これが初見だし。ずーっと見ていても、飽きない。あまりにも造形が整い、美しすぎて。

 婚約破棄したあのリアム殿下と同じ色合いで、彼と並べば、まるで対の人形のように見えただろう。

 この女性ならば、偶然に助けてくれることになったヴィクトルも、婚約破棄されたばかりの私に交際を申し込んでもおかしくはない……だって、その上にドレスの裾踏んで転んで、本当にこの子可哀想まであるもの。

「コホン……」

 わざとらしい咳が聞こえて、部屋には誰も居ないと思っていた私は、恥ずかしくて顔から火が吹き出しそうになった。

 待って……待って!

 そうです。確かに自分を美女だと思ったんだけど、多分、そちらの思っているような理由ではなくてですね!