「いや……僕の都合もあります。ドレスを着た君の歩幅に合わせていたら、目的の場所に到着するまでに夜が明けてしまうという危険性もあります」

 それは多分、ヴィクトルには茶目っ気を出した冗談なんだろうけど、それって確かに冗談で終われないかもしれない。

「ヴィクトルの言う通り……この速度では、私は絶対に歩けないです……」

 階段もこんなに颯爽とした速度で上がれないし、何もかもヴィクトルの言った通りだった。

 それに、彼は今夜中に自分の守護する辺境に出発しないといけないだろうし、早く行かなきゃと言うのならそうだろうと思った。

「……ああ。いけない。レティシア。顔を伏せて」

「はい?」

 私はヴィクトルが指示した通りに、顔を伏せた。そして、かなり移動してから、ヴィクトルが言った。

「……あれですね。なるほど。この世界の人間では見ない、特殊な顔立ちをしていました」

「え?」

「……これは、僕の推理なんですが、リアム殿下に近づいた女性はおそらく、この前に異世界から来たというあの聖女でしょう。違いますか?」

 えっ……異世界から召喚された、聖女ヒロインだったんだ。