「レティシア。それでは、早速帰りの天馬車まで、このまま向かいます。君の生活に必要なものは、僕は全てすぐに用意させますので、これからについては、着の身着のままで何の心配も要りませんよ」

 ヴィクトルはそんな会話をしつつも、歩みを止めない。ここで私は先程から彼に言いたかったことを思い出した。

「あっ……あの、ヴィクトル。実は私……さっきは不注意で転んでしまっただけで、別に足を痛めたりしていないんです……だから」

 私は抱き上げた腕から下ろしてくれれば自分で歩くと言いたかったんだけど、ヴィクトルは降ろす気はさらさらなさそうで、何故か城の階段を上へ昇り出した。

 今……確か馬車を、用意するって言ってたよね?

 簡単には戻れなさそうに言っていた遠方への移動だし、時間がかかるのかもしれない。

 用意された待合室か、何処かに行くのかもしれない……? このまま貴族の常識知らないで動くって自殺行為だし、本当にヴィクトルが出て来てくれて良かった……。

「レティシア。淑女が足を痛めていないと、こうして移動してはならないという法律はありませんよ」

「だって……その、私……重くはないですか?」

 私の着ているドレスは、王太子の婚約者として相応しくとても豪華で、とても重い……そんな私の心配を聞いて軽く笑うと、ヴィクトルは楽しそうに言った。

「辺境伯の仕事を、知っていますか?」

「え。国境を、守ること……?」