「確かに彼女も僕も、陛下や殿下に仕える貴族ではありますが、要請に対し拒否権のない使用人でもありません。それに、女性にこのような酷い仕打ちをしておいて、すぐに二人での話し合いも何もないと思われますが……紳士的な殿下はその辺は、どう思われますか?」

 私は息を呑んだ。鼻で笑ってないけど笑ってそうなヴィクトルさん、強い。権力者であるはずの王子様へ、弁護士ドラマの弁護士並みな、まくし立て方をしている。

「ヴィクトル……」

 婚約破棄したばかりの女性に対し、そんな命令などありえないと肩を竦めたヴィクトルさんに、リアム殿下は鋭い目つきで睨んだ。

「……それでは、これで失礼します。もし、このように故意に傷付けた彼女に何か伝えたいことがあれば、第三者を通してご連絡ください」

「殿下、しっ……失礼します!」

 私はヴィクトルさんに続いて、リアム殿下に退出の挨拶をした。何故か、それを聞いて彼は信じられないといった表情になった。

 ……なっ……何? 悪役令嬢なのに、私、礼儀正しかった?

 私の性格が今までどうだったかは知らないけど、普通挨拶は基本だよね?