「よって……レティシア・ルブラン、君との婚約を破棄する!」

 婚約破棄宣言を聞いた瞬間、天から降る雷に打たれたかのようにして、私の頭の中には、三十路恋愛経験なし喪女だった時の記憶が一気に流れ込んで来た。

 はわわわ!! こ、これが、異世界転生ー!!

 いけない。憧れの異世界転生にテンションを上げている場合でもなかった。これって婚約者から、婚約破棄されている最中……だよね。

 つまり、この状況から見て私は悪役令嬢に転生してるって、そういう事ですね。全てが出揃った状況証拠による、完璧なる推理です。どうですか。

 現代日本から転生して記憶が戻ったのが、婚約破棄される最重要場面……なんなの。嘘でしょう?

 もっとこう……こうなる運命の婚約者の心を掴む努力をするために、幼い頃から色々動きたいなんて贅沢は言わないから、断罪フラグを一本だけ折るために、せめて、一年前に戻して欲しかった。

 先程呼ばれたのは、私の名前のはずだけど、全く聞いたこともない名前だし、それを言うなら目の前の男性にだって見覚えはない。