「ノインくん、本部に帰るんだね」
「うん、リョウちゃんとリグさんを保護して連れて帰るのがボクの仕事! あとジンくんも自由騎士団(フリーナイツ)に正式に入るのなら連れていくけど」
「行きます!」
 
 と、(ジン)が手を挙げる。
 あの戦いから一ヶ月。
 王都を失った王侯貴族の一部はユオグレイブの町に避難し、フィリックスとスフレは王都の町の撤去に協力するため居残り。
 (リョウ)とリグは、自由騎士団(フリーナイツ)に保護してもらうためにノインと(ジン)とともにユオグレイブの町に一度戻ってから自由騎士団(フリーナイツ)総本山に向かうことになった。
 
「俺はいいっつーのに」
「ダメでーす。絶対逃さないからな! お前!」
 
 (リョウ)が嫌そうな顔で舌打ちするシドの腕を掴むノインを見つめる。
 こっそりと立ち去ろうとしたところを、ノインに捕まったのだ。
 
「師匠はユオグレイブの町に残るし、シドがつき合ってよ!」
「……面倒くさいんだよなぁ、お前」
 
 と、言って剣を抜くノイン。
 総本山へ向かう最後の宿の裏庭で、剣の訓練に誘ったのだ。
 さすが自由騎士団(フリーナイツ)の総本山近くのお宿、しっかり訓練場が裏庭にある。
 そこでノインがシドに向かって剣を振りかざす。
 シドは心底面倒臭そうな表情だが、薄い灰色の魔石を取り出して「シド・エルセイドの名にて盟約を交わせし異界の者よ、その力を今こそ示せ――」と素早く詠唱して【戦界イグディア】から漆黒と薄桃色の双剣を召喚した。
 ギョッとするノインと(ジン)(リョウ)
 
「はぁ!? アンタ、【戦界イグディア】の適性高かったの!?」
「俺がリグより適性高いの【戦界イグディア】だけだぞ」
「!?」
 
 三人の視線が樽の上に座るリグに向けられる。
 うん、と無言で頷くリグ。
 このリグよりも適性値が高い?
 
「多分【戦界イグディア】が正式に適性のカテゴリに数えられていたら、シドは【鬼仙国シルクアース】より【戦界イグディア】の適性の方が高いと思う。百本くらいの武具の中位から伝説級と契約しているから」
「は、はぁーーー!?」
 
 他の七つと違い、【戦界イグディア】は適性世界に数えられない。
 ほとんどの人間が適性を持っているからだ。
 だから【戦界イグディア】の適性が一番高い人間なんて聞いたことがない。
 
「え……じゃあハロルドと戦ってる時も本気じゃなかったの!?」
「そういうわけじゃない。俺はリグと違って魔力量が破格な程に多いわけじゃねぇから、配分を考えて戦っていただけだ。あの時は武具を召喚するのに魔力を割くよりも、身体強化に回した方が効率がよかった。今は手合わせだろう? 【無銘(むめい)魔双剣(まそうけん)】を使う状況じゃないから、召喚しただけのこと」
「むぐぐ……!」
「おら、やるんだろう?」
 
 先程まで嫌々だったはずなのに、今度は楽しげな表情になって剣を振るう。
 ノインがそれを受け止め、一瞬で斬り結ぶ。
 
「――このクソガキ」
「っ」
「……魔力を感じないのだが?」
「え? あ、うん、ノインくんは魔力がないよ」
 
 (ジン)が前屈みになる。
 リグが驚いたように目を丸くした。
 (リョウ)が答えると本格的に驚いた顔をされる。
 
「身体強化なしでシドと切り結んでいるのか? あ……ありえないのでは?」
「え……えーと……」
 
 そう言われても、(リョウ)にもわからない。
 とりあえず目にも留まらなく斬り合いだ。
 双剣のシドの方が、やはり押しているように見える。
 気がつけば「なんだありゃ」と訓練場を訪れた剣士系の冒険者が集まってきた。
 
「手加減するなよ!」
「上等だクソガキ!」
 
 シドの顔つきが変わった。
 踏み込んだ瞬間、地面に割れ目ができる。
 元々(リョウ)には目で追えない速度だったのに、さらに速くなった。
 ノインがそれを捌いている。
 (ジン)と、リグさえ空いた口が塞がらない手合わせ。
 いや、これはもう手合わせなのか?
 
「っ!」
 
 ドォン、と凄い勢いで(リョウ)の隣にノインが飛んできた。
 背中を壁に強打して、そのまま地面に突っ伏す。
 一瞬なにが起こったのか、わからなかった。
 しかしすぐに「お、おかきー!」とおかきに治癒を頼む。
 背中の強打はまずい。
 
「シ、シド、ちょっと本気になりすぎではなかろうか」
「手加減するなっつったのはそのガキだろうが。俺だってただの手合わせで済ますつもりだったわ。このガキ、斬り結ぶ度にこっちの動きを覚えて全部合わせてきやがるから――つい」
「本気になった、と」
「あ、やっぱり全部合わせてたんですね……やっぱりノインくんはすごいなぁ……」
 
 (リョウ)にはよくわからないが、ノインはシドの剣技を完コピーしたらしい。
 それでシドも身体強化を使った“本気”を出さざるを得なくなった。
 恐るべし天才。
 地面に膝をついて仰向けにして、膝の上に頭を載せてノインの頬についた砂を払う。
 ぱち、と紺碧の瞳が開く。
 
「あ、大丈夫? ノインくん」
「……う、うわーん! 負けたぁー! リョウちゃんー!」
「あらら」
 
 腰に抱きつかれて、ギャン泣きし始めるノイン。
 その白銀の髪を撫でてあげると、周りの男性陣が冷たい眼差しで見下ろす状況。
 十四歳で女の人の腰に抱きついて泣くのは、ナシのような気もする。
 (リョウ)は気にしないけれど。
 あと、絶対嘘泣きだ。
 
「悔しい。絶対いつか勝つ」
「うん、ノインくん、頑張って」
「うん。頑張る。だからずっと見ててね」
「――! ……うん、見てるよ。ずっと」





ノイン 自由騎士団(フリーナイツ)エンディング