「フォークの俺を惑わす媚薬でも、妃奈は涙に仕込んでいるわけ?」


 「舐めたいときは先に言って。キスもだけど……心の準備が必要だから……」


 「妃奈の味は俺好みだ。バニラみたいに甘すぎ」


 「東条君、フォークになる前は甘いものがダメだったんだよね? それなのにバニラ味はおいしく感じるの?」


 「変わるものだろ? 味の好みなんて」


 「まぁ、そうだけど」


 「今でもコーヒーは飲む。こうばしい香りが好きだ。辛いものも食べる。食べた後の口の中のヒリヒリ感は悪くない」


 「味がわからなくても、においや食感は楽しめるんだね」


 「妃奈、勘違いはするな」


 「え?」


 「どんな甘さでもおいしく感じられるわけじゃない。俺が味わいたいのは妃奈の甘さだけだ」