「生徒会選挙の資料、生徒にもわかりやすい文章に変えてくれたんだな」



 壁に背中を預ける妃奈の前に立ったまま、妃奈の後頭部に手をのせる。

 いつも吊り上がっている俺の目じり。

 優しい男だと思われたくて、頭をなでながら緩ませてみた。

 

 「お前は生徒会のことをよくやってる。副会長が妃奈でよかった」

 

 褒められると過剰に挙動不審になるのが、このケーキの体質で。

「そんなそんな」と焦りながら、謙遜な姿勢で手を小刻みに振っているところが可愛く見えてしょうがない。



 「難しい言葉が並んでると、読む気が失せちゃうでしょ? 私は一通り読んでも内容が理解できなくて。長年生徒会で受け継がれてきた資料だし、手を加えていいか迷ったけど……ちょっとでもわかりやすくしたいなって……思っただけで……」



 生徒会資料の文言が理解不能なら、生徒会メンバーに自分の足で聞きに来い。

 俺ならそう怒鳴りつける、間違いなく。



 でも妃奈は違う。

 いろんな人の立場になって物事を考えるんだ。

 気遣いができる妃奈を、俺は心から尊敬している。