あの時も、キスだけして、何も言わなかった。
 私の嘘を責める事もしないで、抱き締めてくれた。
 一人暮らしのはずだったのに、結局……一緒に暮らすことにもなった。

 それはきっと、私のためで……。
  
「……でも、たまにはちゃんと言ってほしいもん……」

 そう。
 たまには態度だけじゃなくって、言ってくれなきゃ不安になっちゃう。
 私達は、兄妹だって世間では思われてる。

 今回は違ったって……いつか、いつか。
 表では、付き合えないんだもん。
 世間では、李雄くんは彼女いないんだもん。

 みんなが、パパもママも、『恋人作ったら?』って言ってるの知ってる。

 それに、何も言えない。
 『妹』にはどうしようもできないんだよ……?
 
 ばか……。

 泣きそうな私の頬を、李雄くんは撫でた。

 そして長い睫毛の瞳で、黙って私を見る。

 
 
「仕事決まって、大学卒業して、そうしたら梨花と結婚するって二人にきちんと話すよ]


 
「えっ……」
 



「愛してるよ、梨花」




 えっ……えっ……。
 
 はわわわわ……!!


「……なに、そういう事じゃないの?」

 私は声が出なくて……だから李雄くんは、ちょっと困った顔をする。

「やっ……あの……そう、そう……」

 そうなんだけど、まさか……。
 まさか、こんな……こんな……。

「俺の可愛い、わがまま妹君(いもうとぎみ)は、プロボーズしても、まだ満足しないのか?」

 呆れたような、でも優しく微笑む李雄くん。
 いつもこうやって、こんな甘い言葉を言ってくれたらいいのに。

 ……泣いちゃうんだから。
 
「ばか……意地悪なお兄ちゃん……」

「今日はまだまだ、おしおきしてほしいんだ?」

「うん……いっぱいしてほしい」

 私の涙が伝う頬に、キスされた。

「可愛いな……俺も、まだしたい」

「李雄くん……好き……愛してる……」

「俺も好きで愛してる」

 あぁ……もう……大好き。
 愛してる、離れられない……。
 
 やっぱり何が、おしおきなのかっていうくらい……甘い、甘い時間。
 二人の秘め事。
 李雄くんの事しか考えられなくなる甘いキス。

 パパとママはいつ帰ってくるんだろ?

 兄妹同士で、こんなに好きになっちゃってごめんなさい。
 
 でもお願い、もう少しだけ――二人きりでいさせて。

 甘い、甘い時間。
 二人の秘め事。