ママになってくれた律子さんとは、何回か会って、カレーを作ってもらったり、とても優しくて私も大好きになったの。
 早く結婚すればいいよー! なんて言うくらい。
  
 律子さんには大きい息子さんがいるけれど、一人暮らしだから一緒には住まないっていう話で……。
 忙しくて予定がなかなか合わなくて、会うのが遅くなったけど、私も離れて暮らすならいっかって思ってて。

 何より李雄くんとの、付き合い始めのドキドキに夢中だった。
 そして私は、予備校生とか嘘をついちゃった事をどうしようって思ってて……。

 そう家族の事が落ち着いたら、話そうって思っていたのに。

『梨花ちゃん。お兄ちゃんになる李雄よ』

 そう紹介されたのは……私の彼氏だった。

 目の前に現れたのは、私の初めての恋人だった。
 
 お兄ちゃんになる……李雄くん。
 名前が似てて、本当の兄妹みたいだねってパパに言われた。
 
 恋人になる時に、名前が似てるよねって笑ったことを思い出して……目眩がした。
 だって、これからは名前では呼べないのに……私はお兄ちゃんとしか呼べなくなるのに……。
 
「……梨花……」

「っん……」

 長いキスが終わる。

「これでわかるでしょ?」
 
「……わ、わかんないもん……」

「じゃあ、なんて言ってほしいの……?」

「……それは」

 李雄くんは、いっつもズルい。

「梨花、言わなきゃわからないだろ……?」

「デートでも、合コンでもなんでも行けば!」

 私は李雄くんの腕から離れるように力を込める。

「なに、そんな事でむくれたの?」

 でも、ヒョイっと抱き上げられた。

「きゃ! やだ! そ、そんな事じゃないもん!」

「そっか、梨花には大事な事だったんだ」

 そのままリビングのソファに、連れていかれる。
 ドサッと降ろされて、押し倒すように抱き締めてくるけど、私はちょっと暴れた。

「うるさい! 勝手に彼女でもなんでもつくればいいでしょ!」

「デートも合コンも行かないよ。あれは父さんに言われて流しただけだし。俺の彼女は梨花でしょ?」

「えっ……」

「俺は恋人以外とはキスしないけど」

 それから、またいっぱいキスされた。
 家族のリビングのソファで抱き合ってキスしちゃ……駄目なのに。
 
 二人の秘密。
 
 私と李雄くんは……恋人同士なのに、兄妹になった。
 
 パパとママが結婚するって決めた時も、私達は……私は、別れるなんて言えなくて。
 李雄くんも別れるなんて言わないから、二人きりの時はこうやって、私達は恋人に戻る。

 パパとママは、私と李雄くんだけが出席する小さな結婚式をした。
 あの日、教会の影で……私達もキスをしたの。