夕方、憂鬱な気持ちで緑町公園に来た美結は

葵に電話を掛ける。

美結「ねぇ葵〜...」

葵「どうしたの?」

美結「仕事終わったの...?」

葵「終わってないよ」

美結「仕事終わったら空いてる?」

葵「うん」

美結「逢いに来てね、待ってるから」

葵「分かったˆ ˆ」

電話を切った美結はベンチに座る。

美結「あと3時間何しよう」

美結「...寝よう」

美結「...」(目を閉じる)



(トントン)

美結「っ...」

誰かに優しく肩を叩かれて目を開ける。

美結「...あっ」

美結の前に立ってる葵。

美結「葵...」

葵「ごめんね、すぐに行けなくて」

美結「...もうこんな時間...寝てた」

葵「寒くない?大丈夫?」

美結「うん...今日は暖かいから」

葵「ˆ ˆ」

葵は美結の横に座る。

美結「...///」

そんな二人を立ち尽くして見ている

黒髪ロングで花柄ワンピースの若い女性。

(サッ...)

風が吹いた時、女性のハンカチが飛ばされる。

女性「っ...」

葵「...」(バッ)

その瞬間を目にした葵はベンチを立つと

ダッシュでハンカチを追いかける。

美結「っ...?」

(サッ)

ハンカチが地面に落下する前に

キャッチした葵は女性に渡す。

葵「どうぞˆ ˆ」

女性「...有難うございます」

女性を鋭い視線で見ている美結のところへ

戻る葵は微笑む。

美結「俺以外の奴に優しくしなくていいよ」

美結「あっち行こ」

女性「...」



久々おにごっこをして遊んだ美結と葵。

美結「あぁ〜、楽しかった!」

葵「楽しかったね」

美結「中学生の頃以来だよ」

美結「葵ったら俺に手加減するんだからぁ〜w」

葵「してないよ」

美結「ウソ!」

美結「ハンカチを追いかけてた時と大違い!」

葵「...美結には甘いかもね」

美結「イイ意味でね♡」

葵「あっ、飲み物何がいい?」

美結「...葵の血!」

葵「うーん...今は難しいな...ˆ ˆ;」

美結「知ってる♪じゃ、ジュース買ってきて!」

葵「分かった!行ってくるね」

美結「...///」(顔を隠す)



葵は自販機で飲み物を買う。

葵「...」

女性「あの...」

葵「...?」(振り向く)

背後から声を掛けてきたのはさっきの女性。

女性「葵様...でしょうか...」

女性「間違いでしたら申し訳御座いません...」

葵「はい...そうですが...」

女性「覚えてらっしゃいますか...?」

女性「元華園学園の花です」

葵「あっ...花さん?覚えていますよˆ ˆ」

女性「良かった...またお会いできて光栄です...」



美結「...葵まだかなー」

美結「あれから5分経ったよ?」

美結は心配になって葵の様子を見に行く。

美結「葵〜?」

美結「...っ」

美結の目に映る葵と女性。

美結「アイツさっきの女じゃん」

美結「なんで葵といるんだよ...」

美結「葵に恋をしたとか...」

美結「ッチ...ざけんなよ」

木に隠れて女性を睨む。

美結「...」

微笑む葵に胸が締め付けられる。

美結「聞こえねえな...何話してんだよ」

葵にも殺意が強まる。

女性「あの...葵様は現在、」

女性「お付き合いされてる方は...」

葵「はい」

女性「...そうなのですね」

女性は悲しげな表情になる。

葵「...」

女性「私はあの頃から...」

女性「葵様をお慕いしておりました」

女性「今でも葵様への想いは変わっていません」

葵「...お気持ち嬉しいです」

女性「葵様が幸せならそれでいいのです...」

女性「長々と失礼いたしました」

女性「お元気でˆ ˆ」

女性はそう言うと速やかに去る。

葵「...」

葵は振り向くと、目先に立っている美結。

美結「...」

葵「遅くなってごめんね...」

美結「...誰?あの女」

葵「昔の同級生だよ」

美結「大学の同級生?」

葵「いや、中学2年の頃まで通ってた学校の」

美結「...あぁ、お嬢様学校の頃の?」

葵「久々でつい話しちゃってた...ごめんね」

美結「許さない」

拗ねてる美結は遊具の方へ去って行く。

美結「...」

葵は美結の後を追いかけて歩く。



葵「美結...」

美結「...」

美結「ねぇ」

葵「?...」

美結「もし俺が別れてって言ったらどうする?」

葵「...」

葵「美結を殺して僕も死ぬよ」

美結「っ...///」(背を向ける)

美結「じゃあ、殺しなよ?殺せるもんなら」

葵「...本気なの?」

美結「ああ」

美結「だから殺してみろって」

葵「...」

葵「分かったˆ ˆ」

葵は美結に近付くと...

美結「...」

後退りする美結の首を掴み強く絞める。

(グッ!)

美結「う...!んぅぐっ...!」

強い圧迫感に息ができず青ざめる美結。

美結「ヴ...やめ...やめ...で...」

少年「っ...」

驚いた表情で見ている少年のことも見えぬぐらい

葵の目は正常ではなかった。

美結「葵っ...別れない...別れるなんて...嘘...っ」

美結「嘘だから!!」

大声が響き渡った時、葵は手を止める。

葵「...」

葵「嘘?」

美結「は、はい...嘘です...」

葵「...だよねˆ ˆ」

葵「美結は僕のこと大好きだもんね」

美結「...」

(ギュッ!)

美結は葵に強く抱きつく。

美結「ごめん...葵...」

美結「他の奴と仲良く話してるの見てたら...」

美結「葵を殺したいって思って拗ねちゃった...」

葵「...美結のこと以外見えてないよ」

葵は美結を抱き締めて髪を撫でる。

美結「別れる気なんて...微塵もないから...っ」

葵「分かってるよ」

先程去った葵の同級生の女性は、

抱き締められている美結を見て

唖然と立ち止まっていた。

女性「っ......」



その後...

ベンチでジュースを飲んだ美結は葵に寄り添う。

美結「ねぇ...トイレでシよ?久々に」

葵「人のこと気にならない?」

美結「うん、葵は気になる?」

葵「大丈夫だよˆ ˆ」

美結「寧ろ、近くに人がいる状況は」

美結「スリルがあって余計燃える」




美結と葵はトイレに行くと...

美結「あっ...」

葵「...今は難しそうだね」

清掃員が掃除をしていた。

美結「じゃあ...もう一つのトイレ行こ」



あっちへ向かっていると...

美結のスマホ画面に着信が表示される。

美結「ごめん、親から電話!ちょっと待ってね」

葵「うんˆ ˆ」

美結は葵に配慮して離れてる場所へ移動する。






葵と会ってることを母に黙ってる美結は、

一人で散歩をしていると嘘をつき電話を切った。

スマホをズボンのポケットに入れて

戻ろうと振り向いた時

女性「......」

こっちを睨んでいるあの女性。

美結「...っ」

美結は避けて通ろうとすると

女性は腕を掴んで引っ張ってくる。

美結「ちょっ...」

女性「...」

危険を察する美結は手を振りほどこうとするが

美結「(...タイマンか、望むところだ)」

抗うのをやめて女性に挑もうと考える。




人がいない方のトイレに連れ込まれた美結は、

個室に入れられると...

(グッ!)

鉄の棒と縛りつけた紐で手足を強く拘束され

ガムテープを何重も口に巻き付けられる。

美結「っ...」

女性「...」

女性「あんたなんかがそぐう訳無いでしょ」

美結「...」

女性を見て何かを思い出す美結。

女性「飢えて死ねばいいわ」

個室を出る女性。

美結「(...この人)」

解った瞬間

(バシャーーン!!)

上から勢いよく冷水が降る。

美結「っ!...」

(ビチャバチャビチャ...)

(ボタボタボタ...)

女性は美結を見下してトイレを去った。

美結「......」

ずぶ濡れの全身でスマホにも手が届かず

数分が経つ。

呆然と俯く美結の体温は下がり、

目の前のトイレにも行けず...

(ジョワァー...)

床に伝うように広がる生温かい水溜まり。

美結「...っ」

静かに涙をこぼす。



数十分後...

葵「美結...!」

連絡がつかない美結をやっと見つけた葵は、

目の前の光景に驚く。

美結「...っ」

乾いていた涙が再び溢れ出る。

葵「ごめんね...苦しかったね...」

涙目で美結を抱き締める葵。



その後...

美結は葵の家で風呂に入って着替えを借り

暖房の部屋と毛布で暖まる。

美結「葵...ありがとうˆ ˆ」

葵「...美結、誰にされたの?」

葵「話すの怖い...?」

美結「...」

そう何度も聞かれるが、

美結「葵とSMしたかった」

誤魔化す美結。

正直に話すのは簡単だが話すことによって

葵は女性を恨み、復讐せざるを得ないだろう。

そうなれば、葵と過ごす幸せな時間が

1ミリでも減ってしまう。

だから美結は何も言わなかった。



そして、あの女性は...

9年前...



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2015年10月

中学3年生の秋...



女子➀「ふふふ...(笑)」

女子②「...こんな子と歩いて」

女子②「お恥ずかしいでしょ?」

女子③「地味過ぎて考えられない...」

美結「っ...」

葵「...」



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美結のフラッシュバックの一人だった。