ウワサが教室を飛び出して広まるのはあっという間だった。週明けには私と青山君が恋人同士であることが、まるで事実であるかのように学年中に広まっていた。

「おはよう!いやー今朝も凄かったねぇ」

 教室に入ってきてすぐ私の方へやってくる友達。挨拶もなしにそんな事を言う彼女はきっと楽しんでいる。めんどくさい。

「まぁクラス全員が目撃したならこれくらいの速度で広まるか......」

「もうそれ以上その話題出さないでくれる?本当にお願いだから」

 ほーいなんてふざけた返事をした彼女は一限目の準備を始めていた。その返事は絶対守る気ないやつだろ。とツッコミを入れつつ、私も荷物を整理する。どうかもうこれ以上広まらず、尾にヒレも付かず時が過ぎますように。どうかもうこれ以上引っ掻き回さないでくれ。そう頭の中で何度も願う。そう思えば思うほど逆効果になるのは分かった上で、それでも願わずにはいられない。

「はぁ.....」

「有名人は大変だねぇ.....」

「だからさぁ....」

 クラス一のイケメンと恋人同士ともなれば、一気に注目の的になるのも分からなくはない。でも私の場合はまだウワサの状態だ。青山くんがどう思っているのかは別にして、体まで痛くなりそうな突き刺さる視線だけは...ウワサが本当になっても耐えられない気がする。
 そんなことをぼんやりと考えているとチャイムが鳴り、数日前のテスト用紙が配られる。

「お、よしよし」

 結果は六十点台で、まぁいつも通りという感じだった。テストが落ち着けば、次は進路関して頭を使うことになる。

「進路ねぇ....」

 ここに来てすぐの頃は遠い未来の話のように思っていたけれど、それももうすぐそこまで来ている。そういえば、彼はどうするんだろう。別に深い意味はなくてただふと気になった。彼とよく話すようになってから私はふとした時に、彼の事を考えることが増えた。これを周りに間違って話でもしたらまた冷やかされるから、うっかり口が滑らないように気をつけないと。本人の前では特に。

 考え事をしながら、ぼんやりした頭でテスト問題の解説を聞く。授業中に聞く先生の声はどうしてこうも眠気を誘うのか、もし知っている人がいれば是非聞いてみたい。眠りに落ちないよう必死になっていたら、内容なんかほぼ頭に入らずにあっという間にチャイムがなってしまった。

「やっちまった.....」

 ほぼ解説の内容をプリントに書き込めず、軽く絶望する。一限目の片付けをしている私に青山くんが話しかけてくる。

「雉真〜今日の放課後さぁ.....時間ある?」

「部活ないから、多分ある。なに?」

「じゃあ授業終わったら教室(ここ)で待ってて」


 急に改まってどうしたんだろう。何かまずいことでもあったんだろうか。
 一連の流れを聞いていたクラスメイト達が私達のことをニヤニヤしながら見ている。相変わらずそんな視線が痛い。