いつも通りに過ごしていても、ウワサというものはどこからか流れて来るもので、それは私も例外ではなかった。

「ねぇねぇ紫乃、青山くんとは順調?」

「え、何の話....?」

 休み時間、本を読んでいる最中に友達に話しかけられる。なんの事やらさっぱりな私は一旦本を閉じる。ウワサ話の内容を話す友達はいつもより楽しそうだった。

「知らないの?紫乃と青山くん、恋人同士なんじゃないかってウワサになってるの。他には何があったかな.....あっ!二人が本当は双子の兄妹なんじゃないかとか」

「知らない知らない....そんな話どこから流れてくるの。誰よそんな変な話流したの...」

 友達は私の反応を見てしょんぼりとしている。周りからすればウワサが本当である方が面白いのかもしれないけれど、ウワサされている側からするとちょっとイラッとする。

「余計なことを.....」

 私はもう一度本を開く。やっぱり人と関わるのは苦手だ。他人のウワサ話でどうしてそこまで楽しめるのか、私には分からない。勉強したり自分の好きな物に時間を使う方が、よっぽどいいだろうに。かと言って私がそう強く言えるわけでもないけど。

「雉真いるー?」

 教室の戸が開いて、廊下から人が入ってくる。青山くんだ。彼は周りの視線なんか気にすることもなく、私の席の方に歩いてくる。こんな事は初めてで私は少しだけ緊張する。

「あのさ、世界史の教科書かしてくれない?」

「いいけどなんで私?男子に借りればいいでしょ」

「えー......」

 いつもと同じテンポで会話が続く。いつもと違うのはここが教室であること。私達の会話を間近で聞いている友達が驚いた顔でこちらを見ている。周りの子達も私達の様子を見てくすくすと笑っている。

「仕方ないな、はい.....授業終わったらロッカーにでも入れておいて」

「ありがとう〜〜助かった!!」

 そう言って彼は爽やかに去っていった。周りの視線が痛いし、何故かどっと疲れた。席に座って再び本を読もうとする私を、友達はニヤニヤしながら見ている。

「仲良さそうじゃん?」

「そんな事ないよ」

 否定する私を友達はまだニヤニヤしながら『ツンの方が素なんだ?』なんて言う。本当にめんどくさい。元はと言えばあんなタイミングで青山くんが来るからこうなったんだ。

「んでー?実際のところどうなのよ」

「否定はしない」

「とは?」

「もうこの話終わり!!!」

 私がそう言うと友達はさらに笑う。この子はもしかしたらうっかり口を滑らせて余計なことを言うタイプかもしれない。彼女が口を滑らせないように釘を刺して置かないと。
 私がそう考えている間にも友達は、あれこれと一人で盛り上がっている。自分のことではないのに、まるで自分に起きたことのように楽しむ彼女を眺めながら思わず本音が漏れる。


「本当に女子って分からんな」