二人が別れたというのを聞いたのは、五日後だった。

 代わり映えのない一日が終わろうとしていた時、教室の片隅からそれは聞こえてきた。

「智子って、浮気してたらしいよ」

「えー、そうなの。あんな顔して」

「しかも、年上のオジサンだって」

 何も関係のない外野にまで、自分が言ったことが伝わっている。私は恐怖じみたものを感じていた。

 自分の嘘で、二人の絆に距離が出来た。小さな罪の灯が、大きく燃え上がっていく。私は、軽いめまいを感じて教室を出た。

 三階から一階に降りる階段で、智子とすれ違った。智子は目もあわさず、口も噤んだまま。一瞬しか表情は見えなかったが、瞳の色は淀んでいるみたいだ。

 チクリと胸に痛みが走る。智子には何の罪もない。もちろん、隆にも。

 当たり前だった日常を、自分の勝手で壊した。信じてくれていた二人を裏切って。

 様々な思い出が頭の中を駆け巡る。

 いつも、三人一緒だった。小学校の帰り道で、寄り道して泥まみれになって、畦道で遊んだこと。中学校の夏休みに、夏祭りで浴衣を着て花火を見たこと。高校の修学旅行で、

 夜中に旅館を飛び出して、三人で語り合ったこと。

 どの思い出も、鮮やかに思い出すことが出来る。

 私の瞳には、いつの間にか涙が溢れていた。涙は止まらない。

 泣きながら校庭を出ようとしたとき、隆が校門に立っていた。

 隆は虚ろな表情で、虚空を見つめている。

 私は、そんな隆に気付かない振りをして、校庭を出て行った。

 空には二人をオレンジに染める夕日が、西の空に沈もうとしていた。