いつもの休憩所までは鼻歌が一曲終わるころには到着する。そんな距離の場所でタバコを吹かすのは、ばれない自信もあるけど、学校へ対して守備範囲の狭さを知らしめるためでもある。

 その公園は四方を住宅に囲まれていて、窮屈そうにその存在を証明している。公園内には、ブランコ、ジャングルジム、滑り台と、ベンチが設置されている。抽象的な造形の滑り台の下には、洞穴のような空洞がある。その空洞の中で、ひっそりとタバコを吹かす。唯一の居場所だ。

 滑り台の滑走路の下には、タンポポや名前を知らない雑草が生えている。草花たちは、すごく健気だ。私もこんな風に、日陰でもいいから力強く上を向いていたい。

 幼い頃は、こんな高校生になるとは思いもしなかっただろう。私にも夢があった。保育士になることだ。保育園に通っていた頃、大好きな先生がいた。母が迎えに来て、保育園から帰る時には、泣きながら先生の名前を呼んでいた。そんな私を、その先生は「せりちゃん」と、優しく呼びかけて落ち着かせてくれた。そんな先生も、今頃は結婚して幸せになっているだろうか。あの先生ならきっと、素敵な男性が放っとかないだろう。

 空洞の中で上を見上げても、当然のごとく真黒だ。一歩その外に出れば、果て無い空が広がっている。コンクリートの壁一枚を隔てて、世界はくっきりと分かれている。

 フー、と深く煙を吸い込んで、奥深くまで行き渡らせる。そして、どこまでも届けと言わんばかりにハー、と息を吐き出す。たまらない瞬間だ。煙を吐き出す瞬間は、全てを忘れられる。私が好んで吸っている銘柄は、セブンスターだ。女性がよく吸うタバコはメンソールだろうが、私はいかにも女性というイメージが嫌だったから。タバコを美味しいと思ったことはない。行き場のない気持ちを煙に込めて飛ばすんだ。

 周りは受験や恋愛、夢などの話題で溢れている。みんな、それらを理由に青春を満喫している気になっているだけだ。私はどの話題にも属さない。一人で学校に行き、一人で昼食を取り、一人で下校することが多い。十七歳にして、迎合することに疲れ果てている。