学校は午前中で終わった。中間テストだったからだ。狭い教室に閉じ込められて、合図と同時に問題を解かされる。生徒達は、日頃から将来を見据えて勉強している者、一夜漬けでヤマを張って挑戦する者まで、実に様々だ。

 私は後者にすら当てはまらない。はなから投げ出しているから。

 勉強に意味も価値も見出せずに、当たり前のように勉強しないでテストに臨んだ。

 結果は散々だった。名前を書いて問題に目を通すと、まるで暗号のように問題が頭の中を混乱させる。早々と気力を失い、机に突っ伏した。

 シャーペンシンシルが擦れる音は、まるで心の音。みんな生き急いでいるみたい。カツカツと忙しなく音を立てている。色んな場所から響いてくる。私はこの音が嫌いだ。静かな空間の中で、その音だけが鳴り続ける。奇妙な光景だとも思う。

 これから先も競争は続くのに。これまでも、競争してきたのに。私は早くにその流れから抜け出した。いや、逃げ出したのかもしれない。でも、意外と気楽なものだ。群れるのは嫌いだったから。

 後ろの席からの合図で目を覚ますと、右腕だけ後ろに手を回し答案用紙を受け取る。右から左までギッシリとで答えが書かれているのが、裏返しになった答案用紙からも分かる。こんな答案用紙を見せられると、なんだか、自分が間違った人間のような気がしてしまう。

 まあ、間違いなく、正しい人間ではないのだけれど。

 もともと、一か所に留まることは苦手だった。小学生から中学生へ、中学生から高校生へ進む段階で多くのことを学んだ。年齢を重ねるほどに、人は普通にならなければいけないと。でも、私にはその普通が理解できなかった。母親からも、普通の大学に行って、普通の会社に就職して、普通に結婚しなさいと言われ続けている。

 テストが終わると、クラス内は一気に騒がしくなった。騒めきの中で、私は目を閉じた。声が飛び交う中にいるのに、一人だけ遠くにいるみたいだ。私はどれだけ周りに人がいても、いつも孤独を感じる。目を開けると、みんなそそくさと帰り支度を始めていた。私は薄っぺらな鞄を机の上に置いて、外の景色をただ見つめた。
 
 担任がお決まりの台詞を言っている間も、クラスの喧騒は静まらなかった。担任も業務的に話しているだけで、お互いが干渉しない絶妙なラインで空間が成立っている。話が終わると、一斉に椅子を引く音が教室中に響き渡った。私は最後まで残っていた。ゆっくり        

 腰を上げて外を眺めると、柔らかなそよ風が木々を揺らしている。私は窓を閉めて、ゆっくりと教室を出た。
外に出ると、柔らかな風が、外巻きの髪の毛を揺らした。

 帰り道に、桜の木に挟まれた長い道がある。今は薄紅色から緑が覆い尽くす木に変わっている。すぐ隣は川が流れていて、春には桜の花びらが流れに身を任せて、ゆらゆらと流れて行く。
 
ふいに目を細めると、陽光を受けた春の雲が、気持ち良さそうに泳いでいる。冬の寒さを乗り越えた空には、何か力強さのようなものがある。