「鞠は付き合ったら依存するのがこわい? ヤギさんに」

「……こわい。柳沼くんから離れられなくなるのも、こわいの……」


バカだなあ……
ヤギさんからしてみれば、願ったり叶ったりだろうと思うが、鞠にとってはこれは切実な気持ちなのだ。
ただ当事者ではないから、鞠のこの姿はすごい可愛くてしょうがない。
本当に今周りに誰もいなくて良かったと思った。


「鞠。それ全部さ、胸の中にある不安や恐怖とか、葛藤とか? 鞠の気持ちをヤギさんに伝えたらいい。絶対に、大丈夫だから」


鞠のウルウルする瞳の中に自分の姿が映り込む。

私には、ヤギさんがどんな鞠でも受け止めてくれるという確固たる自信があった。
まだ彼と出会ってほんのちょっとしか経ってないというのに、ここまで信頼できることが不思議だけど、それだけのものを彼は持ってるんだ。


「それに、ヤギさんは顔が一緒なら誰でもいいわけじゃないんだって。そんなこと鞠が一番わかってんじゃん。ヤギさんはそういう人じゃないってさ」

「……柳沼くん、言ってくれたの。俺が好きなのは、鞠ちゃんだって……」

「うん、ヤギさんが好きなのは私じゃない。……鞠はやっと見つけたんじゃんか。本物の王子様」


そう言うと鞠は再びポロポロと涙を流すので、私はその小さな頭をそっとあやすように撫でた。