『ごめん繭ちゃん……俺、好きな人がいるんだ』
知ってた。
知ってたから、わざわざフッてもらいにきたんだ。
『俺なんかを、好きになってくれてありがとう』
どこまでも人柄が良く穏やかで優しい彼は。
姿を見ればこっちまで安らぐ雰囲気を纏っている。
初恋だった。
でもそれは鞠も同じで、恋がスポーツのような勝ち負けでないことはわかっていた。
私は心中を隠しながら、苦し紛れの笑顔を作る。
「鞠のこと、よろしく」
"この恋が叶いますように"なんて願ったことは一度もない。
ただ、煩わしかった。
この気持ちが煩わしくて仕方なかった。
早く消えて無くなればいいと思った。
初めてだから恋の終わらせ方もよくわからなくて、無理にでも終止符を打ちたくて、いっそのことフラれてしまえばいいと思ったんだ。
それは、双子の姉である鞠と同じ人を好きになってしまったから。
そして二人が両想いだと知っていたから。
こちらこそありがとう。
ほんの短い間だったけど、私に恋というものを教えてくれた。
本当に、ありがとう……
僅かながら溢れそうな涙を流さないよう歯を食いしばり、まるで何事もなかったかのように広がるいつもの青空を見上げながら、私は足早に校舎の中に入った。