『もしも、ぼくが』

 今思えば いつもぼくは
 他人の心配ばかりして
 輪を大事にして 笑っていたよ

 このままあなたの想い出になる前に 伝えよう
 耳を澄まして 聞いて
 あなたはあなたらしく
 いて下さい

 いつからか 時々君を
 じっと目で追ったりして
 バレないように 誤魔化す日々

 これからの君の力になれるように 伝えたい
 両手を広げて 受けとめて
 君の事が ずっと
 好きでした

 もし ぼくが あした
 眠りに落ちたら
 どうか泣かないで 笑って
 君の笑顔が 一番
 好きだから……



 風音side

「…ゴホッ…ゴホッ……はぁ~……」
 僕は咳をしながらベッドに起きあがると、窓の外を見た。
 最初はただの風邪だと本当に思っていた。でも全然良くならなくて、徐々に弱くなっていく自分の体が恨めしかった。
 無理していなかったかと言われれば、それは嘘になる。僕だって誰にも言えずに苦しんでいた。でも……
 僕達の大切なバンドが大変な時に、僕は一人でこんな所で何をしてるんだろう?嵐には焚きつけるような事言ったけど、出来る事なら僕も一緒に行きたかった。
 竜樹とも話をしたいし氷月と仲直りもさせたいし、いつもの雷のボケに皆で笑いたい。
 吹雪ちゃんの明るい笑顔も見たいし、そして何より僕が今一番見たいのは……

「風音君!」
 そう、南海ちゃんの……
「って、南海ちゃん!?何で?」
 勢い良く扉を開けて僕の独白を遮った人物。それは今思い浮かべていた……南海ちゃんだった。
「……良かった…元気そうで。あ、ごめん…病院なのに大きな声出して……」
 小さくなりながらそっと病室に入ってくる南海ちゃんを固まったまま見つめる。何も言葉を発せずにいると、椅子に座りながら南海ちゃんが笑った。
「何でって…お見舞いに来たに決まってるでしょ。」
 ちょっと照れくさそうに言うと、持っていた果物かごをベッド脇のテーブルに置いた。
「あれ?もう朝?」
「何言ってるの?風音君。さっきまで窓の外見てたじゃない。」
 指摘されて改めて外を見ると確かに明るくなっていて、時計は10時を回っていた。外の景色も入ってこない程、考え事をしていたみたいだ。僕は少し体勢を変え、南海ちゃんと向き合う。

「本当に心配したんだよ?急に倒れるんだもん……」
「うん、ごめん……」
「謝らないで。ずっと体調悪くしてたのにちゃんと気づいてあげられなくて、こちらこそごめんなさい……」
 二人して頭を下げ合う。放っておいたらいつまでも謝り合戦が続きそうだったから、思いきって顔を上げると微笑んだ。すると南海ちゃんも笑顔を見せてくれる。……やっぱり僕は彼女の笑った顔が……
「好き。」
「……え?」
 突然の告白の言葉。心の中で思っていたのがついに堪えきれずに出たのかと思ったら、それは南海ちゃんの口から発せられたものだった。
「は……?え、えぇ!?」
「私もうあんな思いしたくないの。大好きな人が目の前で苦しんでて、なのに自分は訳がわからなくてただ名前を呼ぶ事しか出来なくて……だったらもうこの際恥ずかしいとかそんなの乗り越えて、ちゃんとこの気持ちを伝えなきゃって。失ってしまうかも知れないっていう怖さに比べたら、失恋の痛みなんて全然平気。」
 そう言ってのけた南海ちゃんが、凄く綺麗だった。初めて見る表情に見惚れていると、急に風船がしぼんだみたいになっていつもの南海ちゃんに戻ってしまう。あ~残念……

「あのね……」
「や、やっぱり今日はもう帰るね!返事は…いらないから。あとこの事は誰にも内緒にして?吹雪にも。それに私に気を使ったりとかも大丈夫だから。今まで通り仲間として……」
「僕も!」
「……え…?」
「僕も…南海ちゃんが好きだ。」
 帰ろうとする南海ちゃんの服の袖を掴んでずっと伝えられなかった想いを吐き出す。しっかりと目を見て真剣な想いを体中から溢れさせて。……思いっ切り赤面してるだろう事は誤魔化せていないだろうけれど。それでもそういう方が僕らしい。
「うそ……」
「うそじゃない。」
「だって……」
「だって、何?」
「……風音君って意地悪だね。」
「そう?」
 とぼけた顔をすると固まっていた体から力を抜いた南海ちゃんが、もう一度椅子に腰を下ろした。

「じゃあ私達って……」
「うん、そうみたいだね。」
「やっぱり信じられないや。だって片想いだって思ってたから。」
「僕もそう思ってた。仲間っていう関係のまま終わるのかなって。」
 僕が言うと南海ちゃんも小さく頷いた。
「南海ちゃん。」
「うん?」
「改めて、これからよろしくお願いします。」
 ベッドの上で正座して頭を下げると、南海ちゃんは苦笑しながら小さい声で『こちらこそ。』そう言った。



 もし ぼくが あした
 眠りに落ちても
 どうか名前を 呼んで
 君の笑顔が 絶対
 起こしてくれる