席は満席と言っていいほど埋まっていた。

そして海真くんが登場すると、お客さんたちはソワソワと何かを待ちわびているよう。


けれど海真くんは気にすることなく、私をそっと降ろして肩をポンッと叩いてくる。



「バイト、してみない?」


「ばいと…?」


「そう、アルバイト。したいって言ってただろ?ちょうど今日はオープン記念の祝い事らしくって。接客が絶望的に足りてないから、今なら看板娘になれるよののちゃん」



ドリンクや軽いおつまみは店長さんが作るから、ただ私は注文を聞いてそれを客席に運ぶだけでいいのだという。



「おいミト。この街の通い人でもない子を働かせるなんて、俺はそんな教育してないぞ」


「んでも、人手があるぶんには文句ないでしょ?だっておれも今日は約束どおり演奏するつもりだし」


「……だが、」


「やってみたい……」



私の小さなつぶやきに店長さんは黙った。