「ののちゃん、起きてる?」



ちょうど窓のそばに立ったとき、ヒソヒソと聞こえたような気がした。

思わず私は勢いよくカーテンを開ける。


………ぶわりと、視界が見えないくらい目尻いっぱいに溜まった。




「拐いにきたよ、オジョーサマ」




カーテンだけじゃなく窓も開ければ、大好きな笑顔が一面。


ここは2階だ。

そばに大きなモミの木があって、きっと彼はそこをよじ登って2階のベランダに着地したんだろう。



「危ないよ海真くん…、ここは2階だよ…?」


「大丈夫、ののちゃんにはいっさいケガさせないから。いい?そこに掴まってて、おれがぜったい受け止める」


「でも…っ」


「飛んで!───っ、……ね、へーき」



海真くんを信じて誘導されるままにベランダから屋根、そこから地面へと降りる。

もちろん藤原さんは気がついていない。


私は2階の窓から飛び出して、こんな時間に外に出たんだ。