今さらピシッとしたところで。

彼女はどう出てくるだろうと伺ってはいたが、何事もなかったを貫く気だ。


だから私も同じように普段と同じ行動をして、そのまま部屋へ向かおうとしたけれど。



「藤原さん」


「はっ、はい!なんでしょう!」


「…私、これから帰らない日もあるかもしれないの。だからお母さんには……黙っててくれる?」



あなたも今の光景をお母さんに話されたくはないでしょう───?


脅しと言われたなら、そうだ。

こんなものを使ってまで私は、わずかな自由を手に入れようとしている。



「もちろん財前さんにも話さないで。…藤原さん、お願いできる?」



ぜんぶ見ていたよ。
ぜんぶ聞いていたよ。


私の無言の釘に、藤原さんもまた言葉にしなくとも深くうなずいた。


身につけた制服のリボンから、ふわりと彼の香りが微かにする。

初めて感じた首筋に残る刺激さえも。



『ののちゃん』



あたまのなかは苦しいくらいに海真くんでいっぱいだった。