「………行ったっぽい」


「よ、よかった……」


「ね。アホだろ。懐中電灯持ってたのに1回カゴから外してたし」


「…うん」



こんなに緊張してる。

私も海真くんも、きっとお互いの音がいちばん聞こえている。



「…アンティノウス……」


「え?」


「バチカン美術館に飾ってある……彫刻」


「が、どうかした?」


「……似てる気がするの。雰囲気が海真くんに」



それは去年、お母さんの仕事の社交界でローマに行った際、有名な美術館に立ち寄ったときに見た彫刻だ。

どこかとても印象的だったから、名前まで覚えてしまっていた。


もしアンティノウスが彫刻から人間に戻ったとしたなら、こんな性格や声をしているんじゃないかなって、そんな変なことまで。



「ええ、ののちゃんにはおれがこんなふうに見えてるの?さすがにイケメンすぎだろ。皇帝の愛人で美少年とか…、やめよ、おれ世界を敵に回しそう」


「そうかな…?似てると思うけどな…」


「……けっこう自分がすごいこと言ってるの分かってる?ちょ、まって、全身像だと大事な部分まで見えちゃってるよ。
てかさ……つまりののちゃんから見たおれって石ってことじゃん」