「ののちゃん…?」



さすがにそろそろ帰らなくちゃと、ドアノブにビニール袋を下げたときだった。


バッ!と、勢いよく振り返ってみる。

そこには微かに目を開いた海真くんがいて、私は思わず視界が震えた。



「ののちゃん、だよね?」


「う、うん」


「びっくりしたーー…、え、どしたの?泣いてんの?」


「……っ」



大変だったの、ここに来るまで。

コンビニエンスストアでは店員さんの機嫌を損ねちゃうし、タクシーでは運転手のおじさんに「小銭ないの?」って鬱陶しそうに聞かれたり。



「あー、そこのコンビニ、店員の態度すげえ悪いからおれもそんな行ってない」


「そ、そうなの…?」


「うん。んでタクシーの運転手は基本そんな感じだと思ったほうがいーかも」



知らないことばかりで、初めてのおつかいみたいになっていた。

だから今やっと海真くんと話せてホッとしたの。



「こ、この前の…お礼をと思って…」


「お礼?そんなのわざわざいーのに」



なぜか落ち込んだ。

けれどそこまで引き延ばされなかったのは、すぐに訂正が返ってきたからだ。