「だがさすがに中学生、最初は無理だと断った。…ならピアノを弾かせてくれるだけでいいと、店の飾りとして置いていたピアノを勝手に弾いたのが───海真だった」



そこから、あの場所も始まったという。


情景がパッと浮かんだ。

彼の演奏に心惹かれ、動かされたのは店長もだったんだね。



「もちろん中学生の頃は小遣い程度に渡していたくらいだ。働かせるとうちの店が違法営業になりかねない。…まあ、客からのチップがどうだったかまでは知らないが」



きっと、お姉さんが亡くなったあとの海真くんなんだろう。


良かったと思った。

たまたま逃げ着いた先が、この店長がいるバーで。



「それと、乃々にだけは話しておくことがひとつある」


「じつは玖未さんに惚れてるって?」


「……店のことだ」



お店のこと……?

ピアノはとうぶんやっていないけど、常連さんたちは必ず来てくれるよね。


みんなみんな、海真くんを待っているよ。