「ねえ海真。あたしねえ、このままだと本当にリアルにおばさんになっちゃうんだけど。
まじで笑えなくなってくるからさー……はやく起きてくんないかなあ」



今日も会いにきた病室の前、私はそっと気配を消した。

玖未さんの声は笑っているようで震えている。



「あんたあたしに借金も残ってんじゃん。家借りる用は使わず返したって?ちがうちがう、今まで何回ジュース買ってやったと思ってる?まさか返したくないがために寝たふりしてんじゃないの?……ねえ、怒らないよ今なら。だからさっさと目ぇ開けてってば…」



私たちはあれから、笑顔で過ごしていた。

まるでそこに海真くんがいるみたいに変わらず、けれど今まで以上に家族のように変わった関係で。


ただ、やっぱり。

今のような姿を見ると胸が苦しい。



「お願いだってば海色…、弟とそっちで過ごしたいのは分かるけど……こっちには海真のかわいいお嫁さんがいんのよ。
いつも健気に頑張ってるけどさ…、あたし見てられない。だからあと60年、ごめん70年はこっちに譲って。…おねがい」



いつも何かあったとき、海真くんが頼っていたのは店長よりも玖未さんだったような気がする。

たまにはふたりの時間も欲しいよねと、私は静かに屋上へと向かった。