「これは店長のお下がり。店のコンセプトにも合ってるしってことで、いつも譲ってもらってんの。それが仕事用兼、私服みたいになってるだけ。
おれって自分が欲しいもののために金使うこととか、あんまないからさー」
「…そうなんだ」
海真さんいわく、服にわざわざお金をかけるのも勿体ない───らしい。
着られればいいと。
唯一として古着ショップは好きらしく、そこで時間をつぶすのも趣味のひとつなのだと。
「のののちゃん」
「…“の”が多いです」
「のちゃん」
「…今度は少ないです」
「ははっ。…ののちゃん」
手を引かれながら歩くそんな時間が、とても楽しい気がした。
「はい、とーちゃく」
どこでタクシーを拾うんだろうと思っていると、私を誘導する海真さんは足を止める。
どうやら目的地にたどり着いたらしい。
けれど私が知っている場所ではなく、目の前に建った家も知らない家だ。