「行こう、ののちゃん」
ジュースを飲み終わってグラスばかりを見つめていた私の腕が引かれる。
けれどすぐにそういえばと、彼は私の足元を気にした。
「店長、なんか女の子の靴とかってない?」
「靴?…ああ、そういや前に酔っぱらって忘れてった客のがあるな」
「それでいーや。……あ、それでいい?大丈夫?」
誰が履いていたものか分からなかったとしても、さすがに断るなんてできっこない。
途中で脱いで捨ててきた靴。
よくここまでケガなかったねと、先ほど言われた。
「い、いいんですか…?持ち主が戻ってきたり…」
「へーきへーき。もしそこまで大事な靴だったら、たとえ酔っぱらったとしても置いてく?」
言いながらさっそく私の前に置いて、まるでどこかのおとぎ話のように履かせてくれる。