「やだ…、やだ……、わたしを今すぐ拐って、海真くん」


「……前に、言われたことがある。お嬢様が庶民の生活に耐えられるのは……つまんないおとぎ話くらいだって」



そんなことない。
わたし、こっちの生活のほうが幸せ。

海真くんだけがいるなら、もう他に何もいらない。



「わたし……、海真くんとの赤ちゃんが…欲しい」


「っ…!」



途絶えさせたくない。
水渡家を、途絶えさせたくない。

こんなにも温かくて優しい心を持ったあなたを、あなたで終わらせたくはない。


そこにわたしも混ざりたい。

わたしも一員になりたい。



「…確かに、そうしたらぜったい離れられなくなるね。ののちゃんと俺の血が混ざって、俺たちを繋いでくれる新しい命が生まれるんだ。…可愛いなんてもんじゃないよ」


「うん…っ」


「……うんって…、ばかじゃん」



海真くんの首に腕をまわして、ぎゅうっと目を閉じる。

首筋に顔を埋めながら「乃々」と呼んでもらえる特別な瞬間が好き。