「………ののちゃん」



次の日、さっそくおれはひとつ目の候補でもある立派すぎる屋敷みたいな家を目指した。


初めて見たとき、おれのアパートの何戸ぶんだろって、そんな反応しかできなかったっけ。


ガチのオジョーサマだって思ってさ。

その日に連絡先を聞けなかったのは、どこか気が引けてしまったから。


おれね、本当はちょっとだけ自分が恥ずかしかったんだ。



『乃々さんはいません』


「じゃあ、どこにいるか教えてください」


『お断りします。お帰りください』



インターホンを鳴らせば、使用人らしき女の声に冷たく追い払われる。

何度言ったところで同じ言葉が返ってくるだけ。


これじゃあ埒があかない。



「ののちゃんはここに帰ったんですか?」


『……………』


「それだけは教えてくれたっていいでしょ。…あんたは自分のためだけにののちゃんを裏切ったんだから」


『……今は出かけておりますが、こちらで生活しています』