カウンター席に座った背中はふたつ。
海真くんのものと、玖未さんのものだ。

そしていつもの定位置で自分用の飲み物を注いでいる男性がひとり。



「3コあんだけど、聞いてくれる?」


「……………」


「ああそっか。これはおれの独り言だから、反応なんかないわけね」



大人ふたりはどんな表情をしているだろう。

玖未さんは完全に背中しか見えなくて、店長さんも私の角度からは手元しか見えない。


独り言、だなんて本人は言っているけれど。


とても重大な選択を迫られている背中だった。



「1コ目は、学校やめて働く。その場合はここもやめることになると思うけど、普通に就職する」



それはダメと、言いそうになった。

どんなに海真くんが自分で決めたことだとしても、学校だけでなくこのお店との繋がりまでを切ってしまうだなんて。