今まではどちらかといえば、他人のお家を拝見しているような気持ちだった。

だから何を見たって他人事になってしまって、気持ちが置いてきぼり。


ここはそうじゃない。

そうじゃない何かがあった。



「乃々ちゃん。ちょっとキッチンに立ってみて」


「え?」


「いいからいいから。もしここに暮らしたら、毎日そこに立つのは乃々ちゃんでしょ?」



玖未さんに言われるがまま、私はキッチンに立った。

冷蔵庫もオーブンレンジも揃っていない殺風景なキッチン。


するといつの間にかリビングから姿を消していた海真くんが、再びリビングに入ってくる。



「ただいま」



と、言ってくるから。

私は首を傾げながらも「おかえり」と。



「今日も仕事で大変だったよー。部長が怒っちゃって怒っちゃって」


「…ふふ。お疲れさま」


「でも家に帰れば可愛い奥さんが待ってると思ったら、超楽勝」



ネクタイを緩めるように、首もとでクイッとしたふりをする海真くん。