「あいつね、すごいよ。あたま下げたんだ、あたしらに」


「…え?」


「“前借りさせてください”っつって。つまりあたしらに借金してまでも、乃々ちゃんとの幸せを本気で考えてんのよ」



これは海真には内緒ね───と、玖未さんは人差し指を口元に当てた。



「じゃあ玖未さんも…、海真くんにお金を…?」



言葉にはせず、微笑みだけが返ってきた。


仕方なく貸した、もしそうだったなら彼女はここまで穏やかな顔はしていないだろう。


そして彼にお金を渡したのは玖未さんだけじゃない。

いまも親身になって海真くんと話している店長さんもだ。



「そこに対して乃々ちゃんが罪悪感を感じる必要なんてまったくないからね。…見なって、あの顔」



言われたとおり、じっと見つめてみる。

ピアノをしている以外では見たことがない真剣な顔だった。


店長さんの意見を真面目に受けて、いろんな物件を見比べて、私が住みやすい家を一生懸命探してくれている。