「海真くん……?」



その日の放課後。

校門前で女子生徒たちがチラチラと注目していたから何事かと思えば、そこには誰かを待ち伏せているように見慣れた人物がいた。



「お疲れさま。ののちゃん」



すぐに駆け寄ってどうしたのか聞くと、来たくなったから来たのだと。

ちょうどカフェからバーへと切り替わる休憩中に抜け出してきたらしい。



「やっぱすごいや、お嬢様学校って。お城の門だと思った」


「…うん」


「……ののちゃん」



ぐいっと手が引かれて、だんだん人通りが少なくなってゆく。

木陰に隠れるように私の頬が包みこまれて、優しく塞がれた唇。


ずっと元気がないの、たぶん伝わっちゃってたんだろうな。



「…バイト、このままサボっていい?」


「だめ…。海真くんの演奏を楽しみにしてるお客さんがいっぱいいるから」


「ののちゃんもくる?」


「私は…今日はご飯つくって待ってるね」


「…ん」



最終的には逃げてくれると、言っていた。

私を連れて、誰にも追われない場所まで拐うつもりだと。


もちろん簡単に通る話ではないことは分かっていた。