「ののちゃん、今日はもうおれたち上がろ」


「…まだ時間、30分はあるから」


「おれもうピアノ弾く気ないし、火曜ってお客さん少ない日だから。ねえ店長、いいよね。おれ今日は昼から来てるから9時間は働いてるし、労働基準法やばいって」


「なに言ってんだ。ほとんど休憩で実質2時間だろ、おまえの場合。…はやく仲直りしてこいよ」



店長さんもそうは言ってくれているけれど、私としては気分を紛らわせるためにもお店のお手伝いはしていたかった。

歯切れの悪い反応しかできない私に、とうとう見兼ねた海真くん。



「ならもう言いたいことあるからハッキリ言わせてもらうけど」


「………、」



目を逸らしながらも、構える。



「この意味わかんない空気耐えらんないからさっさと帰って抱かせろよ」


「っ…!?なっ、なに言ってるの…!こんなところで最低…っ」


「最低最低。おれのこと避けてばっかでなんも言ってくれないののちゃんもさいてーい」


「きゃ…!海真くんっ、私ほんとうに怒るよ…!」


「強めに頬っぺつねるんでしょ。なにそれ興奮しかしねーわ。帰るよ、オジョーサマ」