殴るのではなく、言葉で。

財前さんはプルプルと震え、まるで失禁してしまう手前のような面持ちだった。



「海真くん…っ」


「…遅くなってごめん」



物理的にも精神的にも憔悴しきった男へと殴るより痛い一撃を食らわせて、海真くんは私がいるベッドに上がってくる。


痺れはあるものの少しずつ身体の感覚は戻ったが、まだおもいっきり抱きつけないことが悔しい。

けれどそれ以上に与えられた。



「ごめんね…っ、お茶…、くすり…っ」


「金持ちの飲み物って、やっぱおれにはよく分かんない」



年月なんか関係ない。

財前さんとのほうが長いとか、海真くんとは短いとか。


そんなの、なんにも関係がないよ。



「そこで黙って見てろよ婚約者。おまえはののちゃんを騙してまでこんなふうにしたかったんだろうけど…残念。
もうこの子のカラダだってココロだって、おれしか受け入れらんないようになってる」



きっとこの先、彼以上のひとには出会えない。

17歳で分かってしまったほど、私はたったひとつの恋をした。


許されない恋を、した。