「そーですね。庶民には分からない世界です。そういえばののちゃん、店長ってピカソの名前フルネームで言えるらしいよ」



そう笑いかけては「気にすることない」と、遠回しに私に伝えてくれているのだ。

食事が用意されている一室へ行くまでの長くて広い廊下でさえ、私は海真くんのことしか目に入らなかった。



「広くて落ち着かないだろう。きみには」


「落ち着かないってか、これ余裕でバスケできるわののちゃん」


「…うん」


「そんで先生にバレて怒られるまでがセット。ってね」



私たちにしかない思い出で繋げてくれる彼に、どうしようもなく泣きたくなる。


いい気分はしていないはずなのに。

財前さんから出てくる言葉のひとつひとつは、海真くんを蔑んでいるものでしかないのだから。



「じゃ、じゃあそろそろランチにしよう!どうせテーブルマナーも分からないだろうし、海外食は君の口には合わないはずだから今日は和食の職人を揃えているんだっ」


「そりゃ、わざわざどうも」


「っ、乃々はこっち。悪いね、お友達同士で隣に座りたいだろうが、乃々は僕の婚約者でもあるからな!」


「いえ。顔がよく見えるんで、おれは正面も嬉しいですよ」