「ようこそお待ちしておりました」



そして目的地に到着して車から降りると、何人かいる使用人たちのなかで50歳は過ぎている歳の男性が出迎えてくれていた。

彼は財前家に仕えていて、いつもこんなふうに丁寧にあたまを下げてくる。


私の場合は藤原さんは使用人というより家政婦さんといったほうがしっくりくるが、彼は使用人というより執事といったほうがしっくりくる。


そう、何人も使用人がいるレベルの財力と地位を持っているのが財前 一朗太なのだ。

お母さんがどうしても私たちを結婚させたい大きな理由は、そんなところにある。



「乃々さま、お荷物をお持ちいたします」


「…いえ。大丈夫です」


「ではお連れ様のお荷物を」


「あ、おれも大丈夫です。荷物とかとくにないんで。フリーハンドってやつです」


「失礼いたしました」



ジョーク混じりの返答に、使用人である岡林(おかばやし)さんは笑いもせずペコリ。

おれの笑いはレベルが高すぎたみたい、だなんてコソッと耳打ちしてくる海真くん。


ここでも私に笑顔を作ってくれた。