「あー、わかんないかもおれ。ごめんののちゃん、教えて」


「え…、ここの取っ手を…引くだけだよ?」


「うわーー、すっげえ~。車ってこうなってんだ。なにこのハイテク技術。ってことは逆に押せばドア閉まんのかな?」



タクシー、あんなに普通に乗ってたのに。

ここまでスーツを着こなしているにも関わらず、まるで初めて車というものを見た子供みたいに大袈裟な反応。


ここでも海真くんは三枚目を演じる海真くんなんだと、落ちていた気分が和らいだ。



「ふふっ。海真くん、ほんとは分かってるくせに」


「わかんないわかんない。やっぱ庶民ってほら、馬車移動だから」


「いつの時代なの」


「まって、たしか馬車って江戸時代とかだと上級乗り物じゃなかった?」


「…そうだった、かも」



プーーーッと、後部から車のクラクション音が響いた。

駅前の通り道に一時停止していたため、長時間滞在させることは周りの人たちにも迷惑だったらしい。