「乃々……!」



しかしある日のこと。

それはバーの営業前、店長さんから頼まれたお買い物からの帰り道だった。


声を聞いただけで鳥肌が立って、こんなにも追い詰めてくる人間は彼しかいない。



「こんなところで何をしているんだ…!!」


「ざい、ぜん…さん」


「藤原さんには友達の家に泊まっていると聞いたが、きみはそこまで仲がいい友達はいないはずだろう!また僕に嘘をつく気だな!?」



パシッと腕が掴まれる。

肩に下げていたエコバッグが落ちて、スーパーで買った食材が地面に散らばった。



「はっ、離して……!」


「なぜだっ、きみは僕の婚約者なんだぞ……!!」



そんなふうに騒いでいたところで、この街では目立ちもしない。

この人とはあの日以来顔を合わせていなければ、適当な理由をつけて会えないと誘いを断りつづけていた。


財前さんも仕事がどうとか言っていたから、私としてはちょうどよかったんだ。