「………1本でいいので…ください…」



ポツリと、さみしく訴えかける。

すると私のそばに立った海真くんは楽しげに笑いながら、袋にたくさん詰まったニンジンを渡してきた。



「どう?これで足りそ?ついでにジャガイモも」


「……ありがとう海真くん。ちょっとだけ多すぎるかもだけど」


「慣れないことばっかだろうから、あんま無理しないでいーよ。おれもいつもデリバリーとかコンビニだもん」



お家に住まわせてもらうのだから、お料理やお洗濯をすることは私の義務みたいなものだ。

海真くんは快くふたりぶんの生活費はアルバイトで稼ぐと言ってくれていて、いつもひとりでも余るくらいだから自信はあるという。


ああやってピアノを弾いていると、しょっちゅうチップというものを貰えるらしい。



「ううん。私……作りたいの。お料理は好きだから」



ふわりと頭が撫でられる。

いつもの少年感をなくしたその顔は、私しか知らないものになった。


私はこの人を選んだ。

誰にも言えないけれど、海真くんを選んだの。