兄の普段とは違う真剣なまなざしに背筋が伸びた。

「……」

「すず、恋をするなとは言わないけどあんまり一条くんには近づかないほうがいい。何かのきっかけですずの能力が目覚めても、中途半端に使えば取り返しのつかないことになるかもしれないから」

私は人と接して感情を昂らせると猫に変身する。

もしかしたら、憑依も同じ原理かもしれないと兄は心配してるんだ。

「う、うん。わかった。だけど、恋とかそんなんじゃないからね」

私は念を押すようにもう一度言った。

「まあ、そうだといいけどね」

兄は苦悶の色を浮かべながら私の頭を撫でる。

「ごめんな、俺だってこんなことほんとは言いたくないよ。すずには自由にのびのびさせてやりたいんだけど」

「……わかってるよ」

私は消え入りそうな声で返事をした。

私達の正体がもし人にバレたら、この街にはいられなくなる。

そして、それは家族をも危険にさらすことになるんだ。

絶対にこの秘密は守らなければいけない。

自分自身が怖くなってかすかに手が震える。

絶対嫌だ、誰にも取り憑きたくなんてないよ。