「バニラ」

「……」

「バニラ、こっち向けよ」

私が背中を向けているのにも構わず、さっきからちょっかいをかけてくる一条くん。

モヘアの毛糸で私を遊びに誘ってくるんだけど、そっぽを向いて興味を示さないでいた。

「おーい、遊ばないのか?」

なんだか彼は楽しそう。

これが学園一恐れられている不良の一条くんだなんて、クラスのみんなが知ったらびっくりしてひっくり返るんじゃないかしら。

毛糸で私の尻尾をこちょこちょしてきたから、イラっとして振り返った。

もうっ、私は子供じゃないのよ、そんなもので喜ぶわけないでしょっ。

「シャッー」

小さい牙を見せて威嚇したら、彼はクスッと笑う。

その時、不覚にも毛糸の動きに心を奪われて。

ゆらゆら揺れる毛糸を掴もうとして、ピョンピョン飛び跳ねちゃった。

「ニャアー」

毛糸は掴んだと思っても、すぐに逃げていく。