だから、普段からくれぐれも気をつけるようにと母から言われてるんだ。

「あっ!俺今日、日直で早く学校に行かなきゃいけないんだった。先に行くぜっ」

兄は周りに人がいないかキョロキョロ見まわしてから軽やかに走り出した。

「あ、ちょっとお兄、ストップ」 

嫌な予感がした私の静止もきかず、軽くジャンプしたかと思ったらくるっと前転した。

怪しい気配が伝わったのか、あたりの木々はサワサワとざわめく。

瞬きほどの一瞬の閃光。

次の瞬間、兄は毛並みの艶やかな茶トラ柄の猫に変身していた。

しなやかな体つきの美しい化け猫は、猛スピードで駆けていってしまった。

いくら猫でもとてもあんなに早くは走れっこないよ。

「もーっ」

さっき、バレたら大変だからって注意したばかりなのに全然わかってくれていないんだからー。

まったく手の焼けるお兄ちゃんだよ。

いくら力を自由自在に操れるからって警戒心のカケラもないんだから。