まさか、彼に声をかけられるとは思ってもみなかった。

「歩けるか?」

「うん」

そうは言ったものの、頭がフラフラしていて立ち上がることさえできそうにない。

生まれたての子猫のように足がガクガクして、立ちあがろうとしてもすぐにしゃがみこんじゃう。

「しっかりしろっ」

鋭い声とともに、肩を強く掴まれたから怖くてビクリとした。

ひー、体調が悪いのになんなの。

一条くんてばちょっとは思いやりってものが無いわけ?

だけど、次の瞬間身体がふわりと地面を失う。

「ンニャ?」

思わず漏れる猫の声に慌てて口を塞ぐ。

「え、え?」

すぐにはこの状況が理解できなかった。

なんで?なんで?なんで?

彼の逞しい腕に抱き抱えられている私はまさにお姫様抱っこをされていたんだ。

「あの一条くん」

「黙ってろ」

「はいっ」

長い前髪の間からのぞく冷たい目で見おろされて、口をつぐんだ。

こ、これは一体どういうことなんだろう。