自分の席に着くと花音ちゃんがいつもの明るい笑顔で迎えてくれた。

「え、そうかな」

「だって、鼻歌を歌ってたから」

「ええ、ほんとに？うわぁ」

恥ずかしくなって顔を隠すと、花音ちゃんのクスクス笑う声が耳に心地よく響く。

そんなに浮かれてたんだろうか、私ったら。

思えば学校に来ることがこんなに楽しいなんて生まれて初めてかも。

「あ、来た来た」

すると、ドアの方を見た花音ちゃんが私に目配せを送る。

「え」

わたしもそっと横を見れば、一条くんが教室に入るところだった。

急いで前に向き直ってストンと椅子に腰かけカバンの中の教科書をぎこちなく取り出した。

「すずちゃんたらわかりやすくて、かわいー」

「そ、そんなんじゃ」

花音ちゃんにからかわれるのも無理はない。

最近、一条くんと同じ空間にいるだけでちょっと緊張してしまうんだ。

今も、胸がドキドキと騒いでいて焦ってしまう。

こんなとこで、猫に変身するわけにはいかないのに彼を意識してしまう心はどうすることもできなくて。

私ったら、どうしちゃったんだろう……。