彼は私の顔をじっと見つめて、クスッと笑う。

「え、なあに?」

「猫宮って面白いやつだなって思って」

目じりを下げたその視線がなぜか甘い……ような気がする。

「だけど今度もしも同じようなことがあれば俺のことは見捨てて1人で逃げてくれよな」

「それは……」

もしもの時なんて考えたくないけど。おそらく私はまた。

「ごめん、それは約束できないよ」

「なんだよ、意外に頑固だな。おとなしそうな顔してるのに」

「頑固って言うなら一条くんも負けてないでしょ?」

「そうか?」

「だって、家……ううんなんでもない」

まずい、ついうっかり家出してるんでしょ?って猫のバニラの時に仕入れた情報が口をついて出そうになった。

「一条くんだってとっても喧嘩が強くてかっこよかったよ」

「ああ」

彼はなぜか居心地悪そうに吐息を吐く。

どうしたのかな、喧嘩のことは言わないほうがよかったのかな。

「俺、別に好きで喧嘩してるわけじゃないよ。向こうが因縁つけてくるから仕方なく相手してたらいつのまにか学校でも恐れられるようになって」