《瞬side》

凛月は倒れこむように眠りに落ちた。ばあちゃんに看病を任され、部屋へと運んだ。そこで遥翔と出会った日を思い出していた。



俺が遥翔と出会ったのは、中学だった。俺は小学校同様、誰かと慣れ合う気なんてなかった。しかし、俺の平和な生活は初日で終わった。俺は出席番号で運悪く遥翔と前後になってしまったのだ。当然話しかけてくるのだ、遥翔という男は。

遥翔「なぁ、お前どこ小?俺、○○小!!」

俺の奴の第一印象は最悪だった。なんだこの馴れ馴れしい奴は…!

瞬「××小。」

遥翔「そうなのか…。て言っても、引っ越してきたばっかりだから知らねぇや!」

じゃあ何で聞いたんだよ、と当時本気で思った。

瞬「用終わった?俺慣れ合う気ないから話しかけないでくんね?」

こういう奴は最初にしっかり拒絶しておかないと、ずっと付きまとってくる。だから、拒絶した。しかし…。

遥翔「断る!拒絶するなら俺のこと知ってからにしろよ!あ、俺篠宮遥翔!遥翔って呼んでくれ!」

こいつには通用しなかった。むしろ拒絶した方が付きまとってくる。もうこの時点で俺は負けていた。

瞬「はぁ…、めんどくせぇ奴。」

遥翔「何だと!?で、お前名前は??」

瞬「西條瞬。」

遥翔「瞬だな!よろしく!!」

その後、嫌ってほど付きまとわれた。しかし、それを許容してる俺がいた。そしていつの間にか、遥翔の碧い目から逃れられなくなっていた。普段はちゃらけてる癖に、瞳は強く美しい。しかし、影を落とす時もあった。俺はその影の理由を知りたくなっていた。

俺が遥翔の相談相手みたいになってしまったのは、ある夏の日だった。夏休み直前、授業で交通事故に関することが扱われた。授業が進むこと30分。荒い呼吸が聞こえた。その音源を辿ると、遥翔だった。

遥翔「はぁ…。はぁ…。うっ、り…つき…。」

静かだったが、とても苦しそうだった。先生も気づき、声をかける。

先生「篠宮、大丈夫か??」

しかし、遥翔の回答は予想の斜め上をいった。

遥翔「へへっ!引っかかりましたね先生!」

遥翔は笑っていた、いやふざけた。

先生「お前は…。ふざけるのも大概にしろよ~。」

遥翔「はぁ~い、すみませんでしたぁ~。」

クラスの空気は一気に和んだ。しかし俺には、遥翔が隠したようにしか見えなかった。

放課後、俺は遥翔を引き止めた。

瞬「おい、遥翔。」

遥翔「おう、瞬!どうした?」

瞬「話がある。少し時間くれないか?」

遥翔「わかった!」

遥翔は元気そうに話していたが、俺が見惚れた碧い瞳には影が差していた。

瞬「前置きはめんどいから省く。単刀直入に聞く。お前、何隠してるんだ?」

遥翔「何を言うかと思ったらそんなことかよ~。別に何も隠してねぇよ!」

この期に及んでも遥翔は嘘を全身に張り付けた。

瞬「嘘付け。今日の交通事故の授業、明らかに様子がおかしかった。過呼吸気味だったし。」

遥翔「ちげぇって、あれは先生を揶揄うための演技だよ、本気にすんなって。」

瞬「おい、目そらすんじゃねぇ。下手な嘘つくもんじゃねぇぞ?お前嘘下手なんだから。」

遥翔「え、俺嘘下手か?一度もばれたことないんだけど…。」

瞬「それを言うってことは、演技なんかじゃなかったんだな。」

遥翔「しまった…。何でわかったんだ?するどいな瞬は。」

瞬「別にするどいわけじゃない。人の感情なんて、目を見れば大体わかんだよ。」

遥翔「そうなのか。すごいな…。」

瞬「無理に話せとは言わない。ただ、お前抱えっぱなしだろ、ずっと。」

その瞬間、遥翔は涙を流した。

遥翔「そうか…。ひぐっ。わかっちまうもんなんだな…。」

そこから遥翔は引っ越す前の話をぽつぽつと話し始めた。途中嗚咽を漏らすこともあったが、俺は止めずに話を聞き続けた。
そこで幼馴染がいたこと、自分のせいで幼馴染が事故に遭ったこと、幼馴染が自分のことだけを忘れて会うのが怖くなり逃げてしまったことを知った。

遥翔「今話したことが全部だ。俺が…ひぐっ、俺が全部悪いんだ。だから俺は償わなくちゃいけないのに、逃げた!俺は、最低な人間で、もうあいつに会う資格なんてない、あいつの隣に立つ価値なんてないんだ…!」

遥翔はそう言って膝から崩れ落ちた。

瞬「遥翔。俺を見ろ。」

遥翔が顔を上げた瞬間に、俺は遥翔を殴った。

ドカッ!

遥翔「い、いてぇ…。瞬?」

瞬「馬鹿じゃねぇの?お前。ここに来てから、ずっとそんなこと考えてたのか?」

遥翔「瞬、俺は…」

瞬「黙れっ!事実だろうが!じゃなきゃ、そんなしけた面にはなんねぇだろうが!」

俺は遥翔が自分で罪をかぶろうとする姿に、どうしようもない怒りを覚えた。話を聞いた瞬間、遥翔が何で自分のせいだと言っているのかわからなかった。今もわかんねぇしわかりたくもない。でも、かぶんなくていい罪までかぶってるこいつを見過ごすことはできなかった。

瞬「お前ふざけてんのか?お前がその幼馴染にできる贖罪は、お前が罪をかぶることじゃねぇ!その幼馴染と誠心誠意向き合って、また昔みたいに戻ることだろうが!違うのかよ!」

遥翔「瞬…。それは。」

瞬「お前はこのままでいいのか?向こうはお前を守ったんだろ?それなのにお前が負い目感じてどうする!今度は俺が守るって胸張って言えよ!記憶がない?拒絶されるのが怖い?甘ったれてんじゃねぇ!向き合ってみろよ。そんでもしダメだったら、仕方ねぇから慰めてやるよ。」

遥翔「瞬。ぐすっ。ありがとう。俺、頑張るわ。」

遥翔はそう言って、笑った。今度は目も笑っていた。

遥翔「お前もそんな風に声荒げたりするんだな。瞬と出会えて、瞬に話して良かった。」

瞬「は…?き、気持ちわりぃこと言ってんじゃねぇよ。お前が元気ねぇと調子狂うだけだ。」

遥翔「まぁ!そういうことにしといてやるよ!」

瞬「は、はぁ!?何で上からなんだよ!」

そんな他愛無い会話をしながら帰った。その日から俺は遥翔の相談役に抜擢されてしまったのだ。



瞬「案外覚えてるもんだな~。」

ふと凛月の方へ視線をやると、規則的に体が上下していた。とても穏やかに眠っている。

瞬「こいつも覚悟決めてきたんだよな…。多分。」

凛月の髪をなでると、答えるようにすり寄ってきた。

瞬「随分な甘えん坊だな。まぁ、いいか。」

そんな時向こうから俺を呼ぶ声が聞こえた。ばあちゃんだ。

店長「瞬?夕飯作るから手伝ってや~。」

瞬「わかった、今行く。」

俺はそう言って、凛月から離れた。そしてばあちゃんの手伝いをしに、調理台へと向かった。