?「速く来いよ!日が暮れちまう!」

?「待てよ!追いつけねぇって!」

?「ついた〜!海!綺麗だろ?俺のお気に入り場所だ!」

?「ああ、本当に綺麗だ。」

?「なぁ、凛月。これから離れ離れになっちまうけど高校3年の夏にここで会おうぜ」

凛月「ん?何で高3なんだよ?」

?「成人じゃん?良い区切りだろ?」

凛月「あぁ、確かに。もちろんだ!約束な!」

?「おう!約束だ!」



凛月「はっ!!またこの夢だ。」

小鳥遊凛月。高校2年。バスケ部。俺はよく夢を見る。自分の記憶にない誰かとの約束の夢を…。

母「凛月?そろそろ起きないと遅刻するよ〜!」

凛月「ああ、わかってるよ!今行く!」

茹だるような夏になった。制服を身に纏うが、汗でへばり付いて気持ち悪い。朝食を口に含み学校へと足を進めた。
ちなみに、あの夢は今に始まったものじゃない。俺は小学生の頃交通事故に遭い、部分的に記憶喪失となってしまったらしい。母親から聞いた話だが小学生の頃とても仲が良かった友達がいたようだ。今は引っ越してしまったらしいが…。俺は全く覚えていない。覚えていることと言えば、夢で見た約束と凛とした碧い目だけ。その目がそいつなのかすら怪しいレベルだ。

凛月「ほんと、なんなんだよ…。」

学校へ到着し、つまらない授業を受けた。俺は放課後の部活が待ち遠しかった。そして、ようやく放課後を知らせるチャイムが鳴り響いた。
部活へ行くと、見慣れた顔が出迎えた。幼馴染兼バスケ部マネージャーの神崎結華だ。

結華「あ!凛月遅いよ!30秒遅刻!」

凛月「はぁ!?んなもん誤差の範疇だわ!」

結華「あはは!冗談だよ!ごめんって!」

結華はいつもこんな感じだ。全く成長しない。
正直な話、結華に聞けば昔のことがわかるのかもしれない。でも直感的に自分で思い出さなければならないと思っていた。

結華「凛月?何か思い出したりとか…ない?」

結華は会うと決まってこの質問をしてくる。

凛月「あぁ、何も思い出せねぇな。」

結華「そっか…。そうだよね。部活始まる!行こう!」

凛月「おう。」

正直思い出したいとは思ってる。でも手がかりがなさすぎる。引っ越し先もわからないし。前途多難とはまさにこのことだ。

凛月「どうしたらいいんだよ…。」

俺は思い出せないことに苛立ちを覚え、その苛立ちを発散するべく部活に打ち込んだ。
すると部長が話しかけてきた。

部長「凛月!休憩だぞ!少し休め」

凛月「はい。すみません。」

結華「凛月、ドリンクとタオル。珍しいじゃん、休憩忘れるなんて。」

凛月「ああ、サンキュー。大丈夫だ。ちょっと考え事。」

結華「もしかして部活前に話したこと?凛月が忘れちゃった幼馴染の…。」

凛月「ああ、思い出せない自分に腹が立つぜ。なんつう顔してんだよ。お前のせいじゃねぇだろ。」

結華「それはわかってるんだけど。やっぱり私から話そうか…?」

凛月「いや、前も言ったけどこれは俺自身が思い出さねぇとダメなんだ。悪いな。」

結華「ううん、大丈夫。あ、休憩終わるよ。行こうか。」

凛月「おう。」